たまたま視察に出掛けた先生から貰った菓子をにやったら、その礼に…食後の一曲を特別に披露してくれた。

「ほほぉ…お前さん、腕をあげたな」

「ホント?」

「あぁ、それに……」



――― 随分、艶っぽい音色響かせるようになったじゃないか



なんて、以前なら簡単に口に出来たことが、今は何故か躊躇ってしまう。
けれど目の前の人物は、続きが気になるのか、目をキラキラと輝かせて顔を覗きこんでくる。

「それに?」

「それに〜…

あー…こりゃまいった。
黙る時間が長くなれば長くなるほど、妙に期待させちまってる。

さて、何かないか…と、視線を巡らせれば、そこへやって来た猫神様。

「にゃぁ〜」

「ほれ、ウメさんにまでアンコールを熱望されるとは。お前さん、やるなぁ」

ひょいっと抱き上げれば、そういうつもりじゃない…という目でウメさんに睨まれた。



…すまん、ちっと協力してくれや。
と、ウメさんに目で訴えると、小さな鳴き声が返って来て…渋々だが、了承してくれたようだ。



さて…ウメさんはともかく、さすがのも、こんなのでごまかされちゃくれんか。
そう思って視線を向ければ、何故かさっき以上に嬉しそうな顔で、楽譜を広げ始めている姿があった。

「うわぁ〜ウメさんのアンコールなんて初めてだよ!!えっと、えっと…なにがいいかな?ウメさん、リクエストとかある?」



何をどうしたら、こんな危なっかしい…いやいや、ここまで素直に育てられるのか。
まさか、こいつの親御さんってのは、妖精とかじゃあるまいな。

…って、ファータのいるこの学院じゃ、少々シャレにならん。



ぶるりと背筋が震え、ウメさんの前に楽譜を差し出しているの頭を軽く撫でる。

「お前さんが好きな曲でいいんじゃないか?」

「でもウメさんのためのアンコールだよ?」

「だからこそ、お前さんが一番得意なもんを聞かせてやれや」

幹を背に腰を下ろし、抱いていたウメさんを膝の上に乗せる。

「ほれ、特等席も用意したことだし、ウメさんが寝ちまう前に、もういっちょ頼むわ」

「ラジャ!」



奏でられた曲は、アヴァ・マリア
ここ最近ののお気に入りだ。




その音色を聞きながら、耳を動かしているウメさんへそっと呟く。

「明日、好物の缶詰持ってくるから………ありがとな」

「みゃぁ…」

了解を示すように、ウメさんの尻尾が軽く俺の身体を叩いた。





日ごとに艶を増していく音色。
子供だと思っていたが、あっという間に成長するもんだな。

――― 女は、恐ろしい

だが、こうしてそばで、その日々の変化を見ていられるのは…幸福、なのかもしれんな。





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ヒロインは素直なので、感情が音に出るんです…ぶっちゃけ火原先輩タイプ。
柚木先輩とは対極にいるような感じですね。
なので、金やんがいる時の演奏は、想いが乗ってしまうので、どうしてもそういう風になるようです。
(なんだよ、そういう風って(笑))
で、金やんはそれに気づいているけど、自分も想いはじめているので、以前は飄々と言えた台詞が言えなくなったってのがポイント?
あー…ホント、可愛いったらありゃしません(すいません、大好きなんです…こーいう金やんも(笑))